
うどん屋さんだった場所
今年の4月に佐賀県有田町に移り住むまでの5年間。ぼくは福岡に住んでいた。
仕事の転勤だった。東京で生まれ育ったぼくにとって、それは初めての地方での生活で、そこにはさまざまな気づきや発見や感動や不満があったのだけど、そんな中、もっともぼくの心をかき回したものの1つが「九州のうどん」だった。
九州のうどんは、やわらかい。
初めて福岡のうどん屋に入りうどんを食べた後、ぼくはそれをもう2度と食べないと誓った。当時、東京では讃岐うどんがもてはやされていたし、九州のうどん屋なんてぼくの知る限り東京にはなかった。「うどんはこしだ」とテレビのカップうどんのCMだって言っていたし、それは全国共通の認識であると信じていた。だから初めて食べる「やわらかいうどん」は、ぼくに嫌悪感しか与えなかったのだ。
それでも付き合いとか、「どうしてもうどんが食べたい日」というのがあって、仕方なしに九州のうどんを食べることが時々あった。そうやって、(いやいや)定期的に九州のうどんを食べ続けていたら驚いたことに、いつの間にか食べれるようになっていた。というか大好きになっていた。
一体どのタイミングで開眼したのか??自分でもまったく覚えていない。ともかく、福岡に住んだ5年の間に、ぼくの「うどん感」は180度変わったのだ。もちろんこしのある讃岐うどんをぶっかけで食べるのなんかは、今でも大好きなのだけど、こと「温うどん」に限っては今や九州のやわらかいうどん以外は、あり得ないとすら思っている。
「『うどんはこしだ』など短絡的で乱暴な思想也。 伊太利亜のパスタにペンネやリングイネがあるが如き、うどんもその麺の多様なる種類を楽しむべし。」というのが現在の僕の「九州うどん礼賛主義」だ。
九州最大の地方都市で5年間身体を慣らしたあと、ぼくは仕事を辞め、妻の地元である佐賀県有田町に引っ越して来た。今年の4月のはじめのことだ。引っ越してきた翌日、なんと妻の親戚が営むうどん屋が最終営業日だというので、早速2人で昼食を食べに行くことにした。
そこは70代の夫婦が営むうどん屋。地域の人から長く愛され続けたが、年齢的、体力的に厳しくなったからという理由で店をたたむという。日本の片隅の田舎の小さな町にある小さなお店が、(しかも黒字経営をしているらしいお店が)静かに暖簾をおろす。そういうことは日本のあらゆる地域で起きていることなのだろう。
もう13時近い為か、10人は入れるかという店内にはお客は1人いるだけだった。席に着くと2人とも温うどんとお稲荷のセットを注文した。出されたうどんはまさに九州のうどんだった。綿毛の様にふわふわとした透き通る麺の表面。噛むと深層にだけ少しばかりのこしがある。そのふわふわとした麺にやさしい出汁がしみ込んでいる。付け合わせのお稲荷さんもまたおいしい。
食べながら、こんなやさしい味のうどんが未来永劫食べることが出来なくなる、という認め難い現実に絶望する。これは人類にとっての大きな損失ではなかろうか?日本の西の片隅で、数十年間美味しいうどんを提供し続けてきた小さなうどん屋が、今目の前で静かに幕を閉じようとしているのだ。その事実はぼくの心をざわざわさせた。おいしいうどんに感動したため、心の琴線がいつもより敏感になっていたのかもしれない。
思わず「継ぎましょうか?」と言いそうになるのをうどんと一緒に飲み込んだ。
「ごちそうさまでした」と空っぽのお椀に深々とおじぎした。
店の光景を目に焼き付けた後、ご主人と奥さんに「お疲れ様でした。」と挨拶をすると店を後にした。 お腹は満たされたが、しばらくの間なにやら心はずっともやもやしたままだった。「もったいない」「寂しい」というのが率直な気持ちだった。
そのうどん屋だった場所に今もその夫婦は住んでいる。
ぼくが住んでいる家からも近所で、近くを通った時に顔を合わすと、(一応遠い親戚と認識してくれているのか)いつもやさしい笑顔で挨拶をしてくれる。
先日、そのうどん屋の前で娘がどうしてもトイレを我慢できないという。しかたなくトイレを借りることに。すると、店内は驚くほど(お店のトイレまでも)綺麗に保たれていた。あの時目に焼き付けた光景そのままだった。きっと、ご夫婦が店の掃除という数十年続けてきたルーティンを今さら止められないのではなかろうか。
本当にメニューも何もそのままで、注文をすれば今にでもあのやさしいうどんが出てきそうだった。
(も)
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