SPECIALTHANKS20191114

有田の女と有田焼

2019.11.15 Friday

妻と出会ったのは10年ほど前の東京。
その頃ぼくは20代後半で何を思ったかプログラマーの仕事を辞めて服飾専門学校に通っていた。彼女は現役でその専門学校に通う学生だった。
出会ったばかりで会話もたどたどしい頃。彼女が有田焼で有名な有田町出身だと言うので「有田って何県だっけ?」と聞くと、きまり悪そうに「佐賀県‥‥。」と答えた。ぼくは「ええ!!有田って佐賀にあるの!?」と驚いた。東京出身だったぼくは、それまで有田町が佐賀県にあるということを知らなかったのだ。
今思えばいろいろと失礼な質問と返しだったと思う。

で、現在ぼくは彼女と結婚して子供も出来て、家族3人で佐賀県有田町に住んでいる。人生って何があるか分からない。

SPECIALTHANKS20191114

服飾専門学校を卒業すると、ぼくたちは高円寺で同棲を始めた。驚いたのは、彼女が持っている食器のほとんどすべてが有田焼と波佐見焼だったこと。それに無印良品とIKEAが少々。
当時20代後半だったぼくは器にまったく興味がなかった。その頃のぼくが愛用していた器は100均で買ったのっぺりとしていて重くて白い深めの器だったし、その器に100均で買ったうどんと納豆とめんつゆと卵を入れてめちゃくちゃにかき混ぜた、料理と言えるのか分からないものやら、レトルトカレーやらラーメンやらを盛っては食べていた。
当時ぼくの人生の優先事項はバイトと遊ぶことだったし、食事なんてとりあえずお腹にたまればよかった。
生活の質なんてものにまったく頓着のない若くて健康で無知で浅はかな青年にとって、器は世界で最も関心のない事柄の1つだった。器にお金をかけるなんて発想すら持っていなかった。それなら新高円寺の四文屋に飲みに行った方がましだ。
だから地方から上京してきて時給900円のパン屋でアルバイトをしている女の子が、有田焼や波佐見焼の器を使っていることに、当時のぼくはかなりのショックを受けた。ぼくがおかしいのか?

同棲によって発生する現象の1つに「我慢できる方が我慢できない方に合わせる。」ということがある。
ぼくは器に興味やこだわりがなかったけれど、幼少期から有田焼を使っている有田町出身の彼女は器にこだわりがある。そういう訳で、同棲後わが家の器は有田焼や波佐見焼にゆっくりと入れ替えられていくことになった。

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それで実際に有田焼や波佐見焼を使ってみると、食器の良さというものについて徐々に認識が変わっていき、最終的にその認識は180度変わることになった。

器がかわると料理や飲み物の味も変わる、食事や生活自体の質も変わる。
見る、触る、使う。丁寧に作られたモノと触れていると、生活の根っこの部分が豊かになった気がする。 その効果は当時のぼくにでも確実に体感することが出来た 。

特に顕著に感じたのは、お茶碗とかマグカップとか、普段使いして、直接触れる器だった。 それは棚に置いてあるだけでも、なにやらいい感じのオーラを放っていて、少し裕福になったような気がしなくもない。実際に手にとってみると見た目より軽く、表面からは料理の温度が伝わってくる。食器が口に触れたときの感触、香り、温度。 これは間違いなく味覚の延長だったし、実際に料理が美味しく感じた。バイトの時給が1円も上がらなくても、なんとなく生活が豊かになった気がしたのだった。

あれから10年。良質な器のおかげか分からないけど、いろいろあって彼女と結婚し、高円寺のフリーター生活からも脱し、妻と子供と3人で妻の故郷の佐賀県有田町で生活している。
そして今、良質な器の良さについて文章を書いている。
人生って本当に何があるか分からない

現在、段階的に入れ替えられていった我が家の食器棚の顔ぶれは、ほとんどが有田焼と波佐見焼の器となっている。それと無印良品とIKEAが少々。

SPECIALTHANKS20191114

いい食器はあるだけで生活を結構豊かにしてくれる。そしてひょっとすると人生だって変えてくれるのかもしれない。少なくとも、あの高円寺のうさぎ小屋みたいな狭い部屋でしょうもない生活をしていたぼくに(あの生活はあれでそれなりに楽しかったのだけど)妻と食器が新たな世界を見せてくれたことは間違いない。

ところでこの文章を書いていて思い出すことになった、あの100均の器がどうなったのか。まったく覚えていない。(も)

¥3,850

しのぎ フチサビ マグカップ 有田焼

¥2,750

黒陶 ワラ灰釉 茶碗 波佐見焼

¥3,850

染付 外濃唐草 茶碗 有田焼

¥2,530

染付 ひねり紋 茶碗 有田焼

¥1,320

面取 茶碗 波佐見焼

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